eVTOL(空飛ぶクルマ)の空力研究
JKA 2024年度「空飛ぶクルマの低速および高速飛行時の非定常空力特性取得」補助事業
○ 横浜国立大学 大学院工学研究院 空気力学研究室(教授 北村圭一)
● JKA(競輪)より2024年度研究助成をいただいた研究です
ポイント
- eVTOL用「胴体」に着目.自動車空力ベンチマーク形状"Ahmed Body"を参考に独自形状を提案
- 風洞試験模型を作成.低速および高速流れにおける非定常計測・可視化環境を構築
- 対応する流体数値計算(CFD)を実施.表面圧力分布は風洞試験結果と良好に一致.
研究の背景と目的
・背景: 「脱炭素」がすっかり耳に馴染んだ昨今,活用エネルギー資源の転換による環境配慮が世界的に推奨され,点と点をダイレクトに結ぶ新しい移動手段「空飛ぶクルマ」の開発が各国で活発化している.
その実現には「飛行制御」「空気力学」等の技術発展による安全保証が不可欠である.
特にわが国ではドクターヘリ不足が深刻であり,これを解消する有望な手段が電動化によりコストを下げ,自動操縦化された空飛ぶクルマである.
低騒音であるため夜間飛行もできる.またコロナで打撃を受けた観光地のレジャー用途も期待できる.
・目的: 空飛ぶクルマの非定常空力特性を理解し,これを実機設計に活用する.
特に知見の少なく,高速飛行が可能な固定翼機型の衝撃波の高周波振動を直接観測・測定し,一方で近年目覚ましく進歩している回転翼の流体計算を駆使して低速飛行時の非定常流体場を解明する.
更には,既に予備検討を進めている独自の胴体形状を採用する.
これらより,低速から高速飛行までを行う空飛ぶクルマの新しい形状を提案する.
eVTOL用の独自「胴体」形態"CC"
・自動車空力ベンチマーク形状"Ahmed Body"を参考に作成.直方体を基礎とし,前後にややRを付けて(丸めて)容積を確保.ホバリングおよび前進飛行の両方に対応.
・本研究では、前後形状や迎角の変更に対する空力特性ならびに後流構造に着目.
成果
・ 低速空力特性: 参考用模型「圧力孔付翼モデル」および空飛ぶクルマ模型に対し,低速風洞において圧力測定を実施した.その結果はCFDと良好に一致した.
この事からCFDである程度,流れを再現できていると判断し,CFD結果に基づいて空飛ぶクルマの空力特性を議論した.
その成果は「第62回飛行機シンポジウム」にて発表済みである.
一方で力測定や後流可視化結果は,必ずしもCFDと一致しなかった.
これは風洞試験装置のサイズ等の制約,およびCFDにおける乱流の扱いの両方が原因として考えられる.
・ 高速(超音速)空力特性: 基礎模型に対し,超音速風洞において表面圧力の測定および周囲流れのシュリーレン法による衝撃波を含む可視化を行なった.
衝撃波はわずかに振動しており,その非定常性を確認できた.
まとめと今後の展望
〇空飛ぶクルマの空力研究全体について:
・災害現場や過密都市部,離島部を生活圏とする人々が初期の受益者となる.
一方で将来的には,あらゆる人々が空飛ぶクルマを利用し,その利益を享受する事が目標である.
すなわち最終的には,社会全体が受益者となる.
・一方で,まずは空気力学や航空宇宙工学の研究者,メーカが最初の受益者として責任を持って機体を作り上げる事になるであろう.
〇本補助事業について:
・本補助事業では特にeVTOL胴体に注目して研究を進めた.eVTOL機体形状は現時点で1,000を超え,それらの胴体形状も統一されていない.こうしたeVTOL胴体設計において,本研究は指針を与えるものである.
・具体的には,本研究で提案している前後にやや長いフィレット付き直方体形状はあらゆるeVTOL胴体の基本形状である.
ここを出発点として,例えば短距離用のマルチコプタ型eVTOLであれば胴体を更に短くし,逆に中長距離用の固定翼型であれば長くする,等の応用設計に活用できる.
また車体空力ベンチマーク形状である"Ahmed Body"のように,「eVTOL胴体空力ベンチマーク形状」として利用される可能性がある.
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